ヴェネチア
Venice
イタリア・ヴェネチア「琳派と広重の展開」展について
Venice
小雨の降る、いつになく寒い朝だった。
2008年11月28日。黒木国昭はガラスの聖地イタリア・ヴェネチアの地に立っていた。
マルコポーロ以来のガラスの歴史的里帰りとうたわれた「琳派と広重の展開」展のオープニング当日である。
イタリア・日本の両国外務省、文化庁の後援のもと開催されたこの展覧会の会場である国立 カ・ペーザロ博物館には、数え切れない笑顔の来場者。
しかし、人々の笑顔の中にある小さな違和感を黒木は敏感に感じていた。
それはヴェネチアの文化、「ガラス」を日本人がどう理解しているのか?
興味と疑心を含む採点者的な視線であった・・。
「ガラスに関わる全ての皆様に、心より最大の敬意を表します。」
感謝と自信に満ちた黒木の挨拶で展覧会は幕をあけたが、彼はしばらくの間、緊張した面持ちでじっと会場の人々を見つめ続けていた。
それから突如、黒木の顔にいつもの笑顔が戻った。
そう、それが「西洋のガラス文化」と黒木の表現する「日本のガラス文化」が融合した瞬間であった。
西洋の素材に日本の美を映し出す黒木の仕事が人々の心をとらえ、いつの間にか人々は自分たちの文化「ガラス」を通して「日本を感じて」いたのだった。
屈託の無い笑顔に囲まれて、黒木はもう一度感覚を研ぎ澄ます。
しかし黒木が覚えた小さな違和感は、存在していた事が夢だったかのごとく既にそこに感じ取ることは出来なかった。
2ヶ月にわたるロングランの展覧会は無事に終了した。
作家人生の中でも大きな仕事を終えた黒木は、今現在も多くの反響の中、意欲的に制作を行っている 。
ヴェネチアが彼にどのような影響を与えたのか。
また彼がヴェネチア展を通して何を感じ取ったのか。
これから誕生する「黒木国昭作」から一瞬たりとも目が離せない。